東京高等裁判所 昭和34年(う)2286号 判決 1962年7月25日
被告人 岡田育弘
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人池田輝孝作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は東京高等検察庁検察官検事沢井勉作成の答弁書記載のとおりであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。
論旨第一点、第二点、第三点について。(省略)
同第四点について。
所論は、出入国管理令第六〇条は出国につき有効な旅券の所持とその証印を要件としているが、旅券は日本国政府が出国者が日本人であることを証明して出国先の国にその保護を依頼する紹介状であり、証印は証券の名義人がその時出国したことを確認するだけのものに過ぎずさほど重要な意味を有するものではないのであるから、その手続違反に対してはせいぜい科料の制裁で足りるのにかかわらず、同令第七一条がこれに対し一年以下の懲役若しくは禁錮又は十万円以下の罰金を科する旨規定しているのは不均衡に重い罰を科するものであつて同令の右規定は憲法第三一条に違反するものであると主張する。よつて案ずるに、出入国管理令は出入国の公正な管理を目的として制定された一種の行政法規と解されるから同令所定の制裁は行政法規の実効を確保するために定められた行政罰であるというべきであるが、行政罰としていかなる制裁を科するかは同法令の目的、必要性に立脚して違反行為の性質、態様その他諸般の事情を考慮して決せられるべきことであつて、単に手続違反的な行為であるからといつて懲役、禁錮、罰金等の刑罰を科することが許されないわけのものではない。そして同令第六〇条第二項違反の行為に対し同令第七一条が前示のような刑罰を科するような規定をしていることがその行為に対する制裁として重きに過ぎ甚だしく均衡を欠いているものとは認められない。してみれば右出入国管理令第七一条の規定は憲法第三一条の意味において法律に定める手続によつて刑罰を科するものということができるのであつて、所論のように憲法同条に違反するものでないことは明らかであるから、この点に関する所論は採用し難く論旨は理由がない。(以下理由省略)
(裁判官 長谷川成二 白河六郎 関重夫)